建て替えたお金について問いただすと

「これ、めちゃくちゃ美味しい。梨香ちゃん、やっぱ料理センスあるよなあ」
一口食べて、拓人が嬉しそうに笑った。

毎週火曜日。

早帰りの日の夕食は、梨香が作ることになっている。今日のメニューは、茄子とひき肉のキーマカレー。

梨香は「ありがと」と短く返しながら、遠慮がちに切り出した。

「拓人、そういえばさ……」

「ん?」

「前に貸したお金のことなんだけど、覚えてる?」

一拍の沈黙。そのあと、拓人はスプーンを置いた。

「……覚えてるよ。っていうか、ずっと返そうとは思ってるんだって」

「そうなの? 忘れてるのかと思ってた」

「忘れてないよ。返すって言ったじゃん。俺だって、飲みに行く回数減らしたし、バイトも増やしてるし」

それは本当だと思う。でも、現実として、梨香の手元に返ってきたのは、貸した額のほんの一部だけだった。そのことをやんわり伝えると、拓人は梨香から目をそらした。

「俺って信用されてないんだな」

どうやら拗ねているらしい。子どもっぽくて、わかりやすい。いつもならそんな彼を「可愛い」と思えるはずなのに、梨香の胸には不安ばかりが広がった。

「そんなことない。私、拓人のこと信じてるよ」

それだけ告げるのが精一杯だった。拓人は一応うなずいてみせたものの、何も言わない。スパイスの香りが漂う食卓には、スプーンが皿にぶつかる音だけが響いていた。

●怒りよりもまず「どうしようもない……」という思いが先立つ梨香。そんな何ともしがたい思いを打ち明けるのは、拓人にも教えていないSNSの裏アカだった。その日もいつものように悩みについて書き込むと返ってきたのは、話し合いを進める声だった。そして梨香は将来を考え、拓斗とちゃんと向き合う覚悟を決める。後編:【「彼がお金を返してくれない」アラサー女子が裏垢で年下彼氏への不満をつぶやくと…返ってきたネットの応援団の声

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。