また筆が取れるようになり

『読みました、原稿! 素晴らしかったです。特に最後、主人公の清美と愛犬のシグが再会するシーン、ぼろぼろ泣いちゃいましたよ』

スマホの向こう側で編集者の佐藤が鼻息荒く話しているのが目に浮かぶ。菜々子は恐縮しながらも、ほっとした気持ちでいっぱいだった。

今後のスケジュールを確認して電話を切ると、リューが寄ってくる。一時預かりのころは呼ばないと近寄ってこなかったくせに、今ではすっかり甘えんぼうだ。

「リュー、私、褒められちゃった」

菜々子が広げた腕にリューが軽やかに飛び込んでくる。リューは機嫌よさそうに喉を鳴らし、頬ずりをする。どれも以前では考えられなかった行動だ。

しかし変わったのはリューだけではない。

菜々子は再び小説を書き始めた。リューが生きていた証を残したいと思ったとき、菜々子のなかで自然に物語があふれ出したのだ。

「でもね、全部リューのおかげだよ」

菜々子はリューを抱きしめる。菜々子の腕のなかで、リューが小さくほえる。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。