<前編のあらすじ>
宇野家は父親の介護を担っていた兄・雄也さん(仮名)と、遠方で暮らす弟・俊矢さん(仮名)の2人兄弟だった。父親が亡くなった後、俊矢さんは遺言書の存在を初めて知らされた。その遺言書は、父親が雄也さんにだけ相談して作成されたものだった。
「兄貴ばっかりずるいよ。父さんだって、俺にだって少しは相談してくれてよかったのに」と俊矢さんは心の内を吐露。遺言の内容自体には納得していたものの、自分だけが蚊帳の外に置かれていたことに深い寂しさを感じていた。
●前編:【「お前にだけ隠していたわけじゃない」父親の遺言書に隠された秘密に弟が驚愕…葬儀の夜に兄が告白した真実とは】
「法律通り」でも壊れる関係
父親が遺言書を雄也さんとのみ相談して作ったこと。それ自体は法律的に問題ない。雄也さんが一方的に内容を決めたわけではないからだ。
加えて、遺言書はいわゆる自筆証書遺言として必要な形式要件も満たしている。自筆証書とは、本人が遺言書の全文を自署して、署名と押印をしたもので、もっとも日本で多く活用されている遺言書だ。
遺言書は「個人の最終意思」として尊重されるべきものだ。しかし、相続人の気持ちは別問題。俊矢さんは自分だけが話し合いから除外されていた事実にどうしても納得できなかったのだ。
「兄貴ばっかりずるいよ。父さんだって、俺にだって少しは相談してくれてよかったのに」
遺言に不満があるわけではなかった。雄也さんが多く相続することも、近くで介護していた事実を思えば納得できる。だが、それを「自分の知らないところで決められていた」ことが、どうしても引っかかっていた。
とはいえ、相続の結果は俊矢さんの考えとは真逆に終わった。相続は遺言書通りに行われたのだ。俊矢さんも正式に異議を申し立てることはしなかった。遺留分を主張することも可能だったが、父の意思を尊重したいという思いが勝ったからだ。