それでも甘いモノは
それから友樹はしっかりと歯医者に行くようになり、さらに今まで以上に念入りに歯の手入れをするようになった。もちろん甘いものも我慢しているため、広々と使えるようになった冷蔵庫は快適だ。
最初こそぶつぶつ恨み言をこぼしたりもしていたが、歯医者に行くようになって3ヶ月も経てば禁断症状も鳴りを潜めていた。
「おかえり」
「た、ただいま」
仕事から帰ってきた友樹をいつものように玄関で出迎える。明らかに視線が泳ぐ友樹の姿が、なんか引っ掛かる。
「なんでそんなキョドってるの」
「いや別に? いつもと変わらないけど?」
返事も食い気味だった。
「ねえ、友樹。鞄出して?」
「いや、これは仕事道具とか入ってるから…」
「書類とかは見ないから」
美希は笑顔の圧で友樹を屈服させて鞄をもらう。中を開くとそこにはやはりチョコレートの包装が入っていた。
「何やってるの? 甘いモノは禁止だって言ったよね?」
「いや、それってほら、GABAが豊富で快眠するために買ったヤツで……」
「何言ってるの? いっつもベッドに入ったら10秒と経たずに寝てるじゃない。 甘いモノは虫歯を治してからって約束したよね?」
友樹は涙目でこちらに手を合わせてくる。
「お願い、ちょっともう禁断症状が出てて……」
「ダメ」
「300円までならいいだろ?」
「遠足じゃないの! ダメに決まってるでしょ!」
友樹はがっくりと肩を落とす。そんな友樹を見て美希はため息をつく。虫歯と一緒にこの甘ったれた精神をたたき直さないといけないのかもしれない。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。