放置していたせいで……

美希は奥歯に虫歯を見つけただけだったが、実はかなり虫歯は進行していて、全ての虫歯を治すのに最低でも半年はかかると言われたと、帰ってきた友樹は報告をしてくれた。

「半年も……」

驚く美希をよそに、友樹は怖々とお茶をすする。

「メチャクチャ怒られたよ……。なんでこんなになるまで放っておいたんだって」

「そりゃそうよ。素人の私だって怒ってるんだから」
友樹はため息をつく。

「あとさ、前歯がかなり悪くなってたみたいで」

「前歯? へえ、全然気付かなかった」

「何かセラミックを使わないといけないみたいで、それって7万くらいかかるんだって」

「えっ⁉ そんなにするの…⁉」

「保険適用外だから、やっぱり高いみたい。でもさすがにそれは高すぎるからハイブリットセラミックってヤツを使うよ。そっちは最近保険が適用されるようになったみたいで、1本6,000円だから、俺は前歯6本で36,000円って感じ」

「それでもけっこうな値段だね……」

「一応銀歯っていう手もあるみたい。それなら6本で20,000円くらいって言われた」

美希は前歯が光り輝く友樹を想像し、首を横に振る。

「それはさすがに。いくら安くても前歯全部銀色はきついでしょ」

「でも他にも奥歯の治療とかもあるから、総額は結構な額にいきそうだしさ……こんなことならもっと早く行けばよかった」

「……それはもうしょうがないよ。しばらくはお菓子代も浮くし、治療費も問題ない範囲じゃない?」

「え……? お菓子、ダメなのか?」

友樹の顔が絶望に染まる。美希はやれやれとため息を吐いた。

「ダメに決まってるでしょ。こんな風になったのはお菓子とかジュースが原因なんだから。ちゃんと治療が終わるまでは禁止」

美希がそう言うと、友樹は唇をすぼませて頷く。

「そ、そうだよな。うん、そうするよ……」

思いのほかあっさりと認めた友樹に美希は驚いた。しかしそれが友樹としての反省の表れなんだなと受け取った。

「半年間の我慢なんだから、とりあえず治療を頑張ってよね」

「分かった。美希、歯医者に行くように言ってくれてありがとな。俺多分、お前が言ってくれなかったら一生放置して、取り返しのつかないことになってたと思う」
友樹が素直に感謝を伝えてきたので、美希は少し気恥ずかしくなって笑った。

「夫婦なんだから当然でしょ」