義理の母の嫌味
瞬間、胸がきゅっと締めつけられた。
悪意のない顔をしながら、きちんと春美が傷つく言葉を選んでくる、その手練れ具合に戸惑う。
「……あ、はい、気をつけないといけないですよね」
ぎこちなく笑い返すと、芙美子はさらに言葉を重ねた。
「うちの家、代々太りにくい体質だから、どうしても目立つのよね。あなた、健康診断とか、大丈夫なの?」
「ちょっと、母さん……」
雅史がたしなめるように声をかけたが、芙美子は涼しい顔を崩さない。
「あら、私は純粋に春美さんを心配してるだけよ。これから娘になる人の健康を気にかけて何が悪いの?」
春美は膝の上で指を組んだ。体の芯がじんわりと冷えていくのを感じる。
落ち着かなくなってふと視線を泳がせると、壁に飾られた家族写真が目に留まる。みんなすらりとした体型で、手足も長く、整った顔立ちだった。
「春美さんって、甘いもの、お好きなの?」
唐突な芙美子の問いかけに、春美は一瞬迷ってから答えた。
「……はい、好きです」
「ああ、やっぱり。そんな感じがするもの。私はね、できるだけ甘いものはとらないことにしているのよ。砂糖って中毒性も高いし、何より、ねぇ……」
春美が持参した洋菓子の箱をちらりと見たあと、芙美子は春美を見やる。言葉と視線が容赦なく突き刺さる。ついに春美は、返す言葉を失ってしまった。
「今日の手土産は俺が一緒に選んだんだ。父さんには甘いもの方が良いかと思って……」
「ああ、後でいただくよ。私は昔から甘いものに目がなくてね」
雅史と彼の父が必死にフォローしてくれているのがわかった。しかしそれでも芙美子からにじみ出る疎外の意図は春美を打ちのめすのには十分だった。
大きな窓からリビングに差し込む陽光が、妙に冷たく感じられていた。
●そして春美は雅史の家族に見合う人間になるよう、体形改善のためダイエットを始めるのだが、雅史はそんな春美の姿に思うところがあるようで……後編:【「当日、パンパンだったらみっともないわよ」ハレの日のドレスを選ぶ嫁を腐す美魔女姑を黙らせた夫の“一撃”】にて詳細をお届けする。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。