いざ、夫の実家へ

そして今日は、いよいよ春美が彼の実家に挨拶に行く番だ。

「俺もついてるし、何も問題ないよ」

「うん、そうだよね。ありがとう」

笑って答えたものの、春美の胸の内には不安が残っていた。というのも今から向かう雅史の実家は、高級住宅街の中にあって、父親は会社経営者。さらに海外で弁護士をしている姉と、大手出版社で働く兄。現在は専業主婦の母親も、子どもを生むまではファッションデザイナーとして働いていたらしい。

雅史は「大したことない」と言うが、普通のサラリーマンとパート主婦の両親を持つ春美からすれば、十分にエリート一家なのだ。意識の高そうな彼らは、春美を快く受け入れてくれるだろうか。

「……ああ、でもやっぱり緊張する。手土産とか、服装とか、ほんとにこれで大丈夫かなあ」
春美は、柔らかなコットンのカーディガンに包まれた自分の二の腕をそわそわと撫でた。あれこれ悩んだ末に身にまとった春の装いが、今さら心もとなく感じられる。

「全然大丈夫でしょ。そんなに気にしなくていいよ」

「でも、雅史の家族に初めて会うんだもん。少しでもいい印象持ってもらいたいじゃない」

「春美はそのままでいいよ。俺はそのままの春美を好きになったんだから」

小さく笑った雅史は、そっと春美の手を握った。

ストレートな物言いに耳が熱くなったが、おかげで不安や緊張は消えている。彼の言葉がネガティブな感情を拭い去ってくれたようだった。