誹謗中傷をした末路

誹謗中傷の慰謝料相場は、個人の場合10~50万らしく、真耶子に請求された70万という金額は新橋バミィが発作を起こして休養に追い込まれてしまった点を加味しても、多少吹っかけられた金額だった。その証拠に、「M」のアカウントを削除し、真摯な謝罪文を弁護士宛に送ったところ、慰謝料は相場通りの50万まで減額された。
とはいえ、真耶子が失ったのはお金だけではない。

真耶子がそんな歪んだ人だとは思わなかったーーというのは謝罪文を送った日、夫から言われた言葉だった。

夫はさらに、匿名性を盾にしてそういうことを言えてしまうのは病気だとも言った。自分がこうなったのにはあなたの責任だってあるんだと、反論する気は湧いてこなかった。ただ、これまで結婚した惰性で続いていた薄っすらとした信頼や尊敬は、もう完全に消えてなくなったのだと思った。

それなら別れてしまえばいいのにと思わなくもないが、夫から離婚を切り出すことがないのも分かっている。真耶子にしても、今さら生活を大きく変えようとは思わない。離婚をするのだって体力と気力が必要なのだ。紙にただお互いがサインをすればいいというわけではない。

生活は続く。変わったことと言えば、真耶子のスマホからSNSのアプリがすべて削除されたことだろう。もう見る気もない。手元を眺めて下を向いてばかりだった顔を上げると、咲き始めた桜が見えた。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。