<前編のあらすじ>

45歳の明子は編集プロダクションで働くデザイナーだ。母とは疎遠で長らくあっていない。

そんなある日、妹の桃子から連絡があった。母が倒れたというのだ。桃子に乞われるようにして母の待つ実家へと戻ることを明子は決意する。

そして二人は桃子の介添えで、再開するのだが、母は整形を経て別人のような容貌へと変わっていた。

そもそも、明子はなぜ、母と距離を取り続けていたのか。

妹である桃子はなぜか明子を「明君」と呼ぶ。どうやら答えはその呼び名に隠されていそうだ。

前編:「豊胸は100万、鼻中隔延長は80万…」45歳女性が実家で目にした疎遠だった母のまさかの変貌

学園ドラマを観て気づく

お転婆。男勝り。明子は小さいころからそういう評価ばかりをされて育った女の子だった。そんな明子に母はいつも「女の子なんだから」と眉をひそめる人だった。

ずっと違和感があった。

長く伸ばすよう言いつけられた髪は鬱陶しいし、ひざを閉じて座らないといけない理由も分からなかった。

ままごとよりも男子たちと校庭を駆け回り、プロレスごっこをしているほうが楽しかったし、修学旅行の夜に繰り広げられる男子の誰がかっこいいかとか好きかとか、そういう恋バナにも馴染めなかった。

ずっと違和感があったけれど、そういうものなのだと思った。いつか分かるようになる日が、女としての自分を自覚する日がくるのだろうとも思った。

こないと知ったのは、大学生のときだった。

遊びに来た友達とお酒を飲みながら、当時流行っていた学園ドラマを観た。そこには男である自分を抱える1人の生徒の葛藤が描かれていた。友達たちはみんな笑ったり、涙を流したりしながらドラマを楽しんでいたけれど、明子はあまりにも似ている姿にただ唖然とするだけで、笑うことも泣くこともできなかった。

ただ、それまで抱えていた靄が晴れるのを感じた。同時に、靄の先に広がっていた茨がありありと立ちふさがるのも分かった。

とはいっても、心のどこかで自分の家は大丈夫と思いもした。きちんと話せば、母も父も分かってくれるはずだった。けれどそうはならなかった。