顔を赤くして涙を流す母の姿を、今もまだ夢に見る。息ができなくなって目を覚ましたとき、当然1Kのマンションのどこにも母の姿はなく、代わりに明子の頬が涙に濡れている。

ベッドから起き上がり、キッチンのケトルの電源を入れてお湯を沸かす。待っているあいだに洗面所で顔を洗い、芸術的に爆発している短く切りそろえた髪を水で雑に整える。

ふくらみがある胸はさらしを巻いて押しつぶしながら、いっそのこと身体にメスを入れてしまえばいいのにとも思うけれど、一応は親にもらったものであるこの身体をいじってしまえば、それこそ最後のかすかなつながりすらも断たれるような気分になるから、もう45歳になるのに踏ん切りをつけきれずにいる。

沸いたお湯で入れたコーヒーの苦みでまだ三分の一くらい眠っている頭を強引に引っ張り起こす。身体のラインがなるべく出ないよう大きめのジーンズとパーカーに着替え、コートを羽織り、リュックを背負い、スニーカーを履いて家を出る。気まぐれにやってきた寒波のせいで、もう3月に入ったというのに外は寒い。