妹からの連絡

妹の桃子から久しぶりに連絡があったのは、先週のこと。編集プロダクションでデザイナーとして働く明子が再来月に発売される書籍の書影や帯デザインについて、先方とオンラインでの打ち合わせを終えたタイミングだった。

「羽田さん、妹さん? から電話です。一番で」

個人のスマホではなく編集部に直接かかってきた電話に何事かと思いながら応じる。

「あ、明くん? もう連絡してるんだから出てよ」

言われて確認してみれば、スマホには桃子からの通知が一昨日から18件たまっていた。

「忙しいんだから仕方ないだろ。で、なに?」

「LINE見てよ。お母さんが倒れたって送ったじゃん」

喉の奥を空気が通り抜けたように、ひゅっと鳴った気がした。明子はそれを決して悟られぬよう、感情を殺しきった不愛想な声で言った。

「へぇ。で?」

「でってねぇ……。今回は大したあれじゃなかったみたいだけど、お母さんももう70過ぎだし、いつどうなってもおかしくないって思って。明くんとお母さんのいざこざは分かってるけど、取り返しがつかなくなる前に、一応連絡だけ」

「そう」

「もう20年以上会ってないんでしょ? そろそろ歩み寄ってあげたら?」

こっちが歩み寄ったところで、向こうにその気がないんじゃどうしようもないだろう、とは言わなかった。代わりに明子は「まあ、考えとく」とだけ言って電話を切った。

切ってからすぐ、今度から連絡は返すから会社に掛けてくるのはやめて、とLINEを送った。