笑顔を取り戻せた親子
祐也は帰宅するなり、足音を立ててキッチンへ駆け込んできた。やや緊張した面持ちで手渡してきたスマホの画面には、企業からの採用通知が表示されている。
「祐也、すごいじゃない! 本当におめでとう!」
「ありがとう、お母さん。ようやく一歩踏み出せた気がするよ」
裕也は少し恥ずかしそうに頭をかきながら笑った。
「それじゃあ、早速お祝いしなきゃね。裕也、何食べたい? あっ、お父さんにも知らせないと! スマホスマホ……」
1人慌ただしく動き回っている絵里子を見て、裕也は苦笑しながら言った。
「お父さんには、さっきメールで知らせたよ。たぶん、まだ起きてないだろうけど……」
「そっか、まだ向こうは早朝だもんね……でも、きっとお父さんも喜ぶわよ。もしかしたら帰国するって言い出すかも。ブランにも会いたがってたし」
絵里子が冗談交じりに言うと、裕也は最近すっかり成長して重くなった子犬ーー改め「ブラン」とじゃれながら振り向いた。
ちなみにこの名前は、丸まって眠る子犬の写真を見た夫が「モンブランみたいだな」とコメントしたことから命名された。夫は存外犬派だったらしく、最近は頻繁に写真や動画を送るよう要求してくるようになった。
「絶対ないとは言えないのが怖いところだよな。あっ、それよりさ、明日リビングのエアコン掃除するから。お母さんは終わるまで出掛けておいてよ」
「はいはーい、分かりましたよ」
そう言いながら再びキッチンに立つ絵里子の口元には自然と笑顔が浮かんでいた。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。