エスカレートする課長の嫌がらせに講じる一手は…
「奥野、ちょっと来い」
冷たい声で、また橋本に呼ばれる。
重たい気持ちで課長のデスクに行くと、橋本はまたボールペンをカチカチとさせながら、こちらをチラリと見る。
「北館病院との契約の話はどうなってる?」
「今期も継続をしていただけるということで、今週中に山中院長にごあいさつに伺う予定です」
「そうか。じゃ、それ、平田に任すから、お前は行かなくていいよ」
あっさりと告げられた橋本の言葉に倫子は動揺した。
「……え? それはどういうことですか?」
「山中病院との商談は今後、平田に担当させる。お前はもう行かなくて良い」
倫子は前で組んだ手をぎゅっと握りしめる。
「どういうことでしょうか? 山中病院との契約は元々、私が取り付けたもので、長年、私が担当をさせていただいてました。それがどうして急に、平田くんになるんですか?」
橋本は人さし指をくるくると回す。
「新陳代謝。分かる? 新しい人材にさ、どんどん仕事を回してさ、経験をつけてもらって、わが社の戦力になってもらおうというわけだよ」
「では、私はどうすればいいんですか?」
「そんなのは知らんよ。お前、40超えて、まだ人に指示されないと動けないわけ? そんな人材はいらないけどなぁ。ぶら下がり社員にはさっさと退場してもらいたいというのが、課長の本音です」
倫子はあぜんとしてしまい、何も言えなかった。
「ほら、早く席戻んなよ。もういいから」
橋本はそう言って倫子をあしらった。倫子はそのまま席に戻っても仕事を続けられそうになく、オフィスを出てトイレへと向かう。
個室に入った途端、涙があふれてきた。
どうしてこんな仕打ちを受けないといけないのだろうか。残業や接待を断っただけで、仕事を奪われるなんておかしい。自分など、まるで無価値だと言われているような気がして、悔しかった。
倫子はなんとか涙を抑えようと、歯を食いしばって顔に力を込めた。だが涙は倫子の意志とは無関係に流れ続けていた。
●課長からのあり得ない暴言の数々……。倫子が考えた最大限の「反撃」とは? 後編【「仕事は若い男性社員に…」あり得ないパワハラ上司を撃退した方法とは? 40代シンママを奮い立たせた“娘の言葉”】にて、詳細をお届けします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。