厚生年金も国民年金も未加入…まさかの無年金が発覚
会社経営ということであれば、夫婦揃って年金もあるはずです。年金額を聞いたところ「ないよ」との回答でした。上平さんの妻も同様、夫婦揃って厚生年金どころか国民年金にも加入してこなかったというのです。
しかし、上平さんは年金に加入しなかったことを「後悔していない」と言います。年金は死亡・障害・老齢時に受け取ることができますが、老後は有り余るほどのお金があり、死亡・障害状態にならなかったからこそ言えるセリフでしょう。しかし「自分は年金に加入しなくてもよかったが、従業員を加入させなかったのは申し訳なかったなあ」と心を痛めている様子です。
本来、株式会社は厚生年金の強制適用事業所となり厚生年金に加入しなければいけません。加入しないことは違法です。
しかし、国民年金にすら加入していない上平さんですから、厚生年金にも加入する必要性を感じておらず、当時はボーナスで返せばいいという考えで、業績が良い時にはボーナスや一時金など上乗せ支給することで厚生年金代わりとしていました。社員のみんなもこっちの方が喜ぶはずだと信じて疑わず、会社を経営していた40年間会社を厚生年金に加入させなかったのです。
しかし、引退後は「年金が少ないと生活に困るだろう。悪いことをしてしまった」と自分の過ちを深く後悔しています。残念ながら、今となっては償う方法はありません。
上平さんの投資信託は安定的に4%程度の利回りで推移しているため8000万円の投資信託を100歳までに取り崩すには毎月40万円の取り崩しが必要となる計算です。
「100歳までは生きないだろうし、40万円かあ」という上平さんに、筆者は、年金関連団体に寄付する、あるいは元会社所在地の自治体に寄付するという方法もあることを伝えたところ、「確かに、定期的に寄付するのも選択肢だなあ」と言っていました。
元従業員に直接償うことはできないため、寄付したところで自己満足にしかならないでしょう。しかし、もしかしたらどこかで役に立つかもしれないというわずかな可能性を信じて寄付することで小さな償いが実現し、上平さんの心も軽くなり資産減少も実現しやすくなるかもしれません。
●上平さんの経営していた会社のように、厚生年金に加入させてもらえない会社員もいます。そのような場合にできる老後対策にはどのようなものがあるのでしょうか? 63歳の横田さんの事例をもとに後編【会社の違法行為で年金を失う…15年間「厚生年金未加入」の60代男性が直面する老後不安と厳しい現実】で詳説します。
※プライバシー保護のため、内容を一部脚色しています。