突然地面に倒れこんだ夫
9月に入ったばかりの頃、優太宛てに通販会社から小ぶりな段ボールが届いた。
「何か届いてたけど、何を買ったの?」
「ああ、サウナスーツだよ」
「さ、サウナスーツ?」
驚く水咲だが、優太は平然とした表情で説明をする。
「そうそう。ちょっと最近、体重の減りが鈍くなってるからさ、サウナスーツ着てもっと体脂肪を燃やそうと思って」
「でも、まだ、暑いよ?」
優太はとんでもないという顔で首を横に振る。
「夜はもう涼しくて、昔ほど汗が出なくなってるんだって。水咲、気付いてないの?」
気付いてない。というかそんなことはない。涼しいなと思う日もあるが、そんなのは週に1度あるかどうかだ。
「それとランニングもさ、もっと回数を増やそうよ。週4くらいにしてもいいよね?」
「う、うん。それはいいと思うけど」
「食事制限ももっと厳しくやろうよ。調べたんだけど、やっぱり炭水化物はダメだって。もっと減らしていかないとさ」
「ちょ、ちょっと待って。いきなりやりすぎだって。十分、今だって痩せてきてるんだからさ……」
「いや、せっかく効果も出始めてるんだしさ。俺は、もっと痩せたいんだよ」
そう言って、優太は白米には一切手を付けず食事を終わらせた。
この日から優太は本当に白米を一切食べなくなり、さらにランニングも週4日に増やした。前のように音を上げて3日坊主になるようなことはなかったし、厳しいルールを2週間続けたかいあって確かに顔は出会ったころのシャープさを取り戻したと感じるようにもなった。
ただ、スッキリというよりはげっそりという表現が正しいような気もした。
「……し、行こうか」
いつものようにランニングを始めるが、優太の声には覇気がない。そんなにスピードのないランニングなのに、肩を大きく揺らしている。そして走りだして間もなく、優太は糸が切れたように地面に崩れ落ちた。
「え……?」
突然倒れた優太を見て水咲は固まった。
「優太……? ね、ねえ、どうしたのよ⁉」
今日の優太は明らかに様子がおかしかった。本来なら、水咲が止めなければならなかった。
水咲は必死に優太を起こそうとするが、優太はぴくりとも動かなかった。
●突然倒れた夫、原因は……? 後編【ストイックすぎた夫の末路…夜のランニングで熱中症、医師に指摘された「まさかの原因」とは?】にて、詳細をお届けします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。