<前編のあらすじ>

実花(39歳)は、夫・良平(43歳)の実家で家族経営の定食屋を営んでいる。

地元の人や、近くで働く人たちの憩いの場で、昼時などは目の回るような忙しさでにぎわっていたが、突然のゲリラ豪雨により浸水被害に遭ってしまう。店内には泥水が入り込み、冷蔵庫やエアコン、調理器具までもが故障した。

ひと晩が明けると被害は甚大で、復旧できるのかどうかも分からない事態となってしまった……。

●前編:「近くの川が氾濫するかも」地域の定食屋を突然襲った“ゲリラ豪雨の信じがたい被害”

再開は絶望的

その日は店内に入り込んだ泥を取り除いただけで業務を終えた。時刻は23時を回っていた。

夜も更け、義両親が寝静まったあと、実花は良平と居間で膝をつき合わせて今後について話し合いをしていた。

「取りあえず、機材とか全部を買い替えないといけないのよね?」

「ああ。全部が古くなってたから、買い換えの時期ではあったんだけどな、こんないっぺんにってなると、ちょっと、費用がとんでもないな……」

「ど、どれくらい掛かるの?」

「シンクが5万、冷蔵庫が30万、エアコンも30万くらいか。それとは別に工事費もかかるし、店を開くには消毒も必要になって、その費用が30万。だから、今分かってるだけでも100万は必要だし、多分、もっと増えると思う……」

100万という額に実花は言葉を失った。

柏谷食堂はこの辺りでは個人経営の店として、かなり頑張っている部類に入る。平日の昼間は満席になり、店の前に行列ができることも少なくはない。だが、経営が黒字かと言えば、全くもってそんなことはない。薄利多売の商売な上に、ここ最近は利益の部分がどんどん少なくなっていて、どれだけ売れてもトントンに持ち込めるかどうかという状況になっていた。

このような状況で、調理器具や空調設備を一新するというのは難しい話だった。

「知り合いの人が調理器具とかは安く譲ってくれるとかないの?」

「ないことはないと思うけど、難しいと思う。俺の知り合いなんてこの辺りで店を開いている人たちしかいないから。みんなウチと同じ状況だよ」

実花はため息をつく。

「……そうよね。他力本願は良くないよね」

「とにかくこれから、安く冷蔵庫とか空調設備を譲ってくれるところがないか俺は探すから、実花はいつでも開店できるように、店をきれいにしておいてくれ」

良平の言葉に実花はうなずく。

実花はとにかく目の前のやるべきことに集中しようと気持ちを改めた。先のことを考えると、不安で胸が押しつぶされそうになるから、そう思うしかなかった。