意見の食い違う夫婦

翌日も翌々日も、実花は義両親と一緒に店内の清掃を続けていく。少しでも経費を浮かせるため、最後の仕上げに業者を入れて消毒するまでの掃除は自分たちの手でなんとかしようと決めたのだ。

店はきれいになっていくが、肝心の機材の調達が全くうまく行っておらず、どんどん実花たちは精神的に追い詰められていった。

一向に進展を見せない状況に実花はしびれを切らし、良平にある提案をする。

「ねえ、このまま店を閉めた状態だとまずいよ。さすがに貯金もなくなっちゃうって」

「だったら、どうするんだよ?」

「家のキッチンは空いてるんだからさ、そこでまずは作れるものを出そうよ。とにかく店を開けないとさ……」

しかし良平は実花の提案を一蹴する。

「そんなのやっても意味がないよ。業務用のキッチンと一般家庭のキッチンは全然違うんだ。家庭料理を知り合いに振る舞うのとはワケが違うんだ。そんなので、金を取れるわけないだろ? 店の信用を落として、余計に状況を悪くするだけだって」

良平の言葉には棘があった。まるで、素人は黙ってろと言われているような気分だった。彼もまた、焦りやいら立ちをどこにぶつけたらいいか分からなくなっているのだと思った。

しかしそれでも、店の経理を管理しているのは実花だ。このまま黙って店がつぶれるなんてこと、絶対に嫌だった。

「だとしても、このまま機材がそろうのを待ってたらいつになるか分からないよ。例えば、お弁当を作って売るとか、そういうところからでも始めないとさ」

「そんなのは俺だって分かってるよ。俺もそのために、何とかできないかって色んなところに頭を下げてるんだよ。でも、資金が少ないんだから、そんな簡単にいかないんだって……!」

結局、この話し合いではお互いの関係に溝を生んだだけで、何も決まることはなかった。

それからも早く店を始動させたい実花と準備をしっかりとしたい良平との気持ちをズレは埋まることなく、夫婦仲もどんどんギスギスしていった。