佑典はインターホンを押す前にゆっくりと息を吐き出す。こんなに気の重いお盆は初めてだった。人が4人ほど並んで通れるくらい大きな門。重厚感のある木でできていて、上から飛び出した瓦屋根がこちらを値踏みするように見下ろしている。威圧感のある門は何度訪れても慣れない。
隣にいる妻、理乃は生まれたばかりの宏太をあやしている。緊張感を奥に押し込んで、佑典は義実家のインターホンを押した。
「あらあら、よく来たわねぇ。わぁ、宏太くん、久しぶりね~。お婆(ばあ)ちゃんよ~」
玄関先まで出てきた義母の知美は、あいさつもそこそこに初孫に話しかけている。
佑典と理乃が結婚したのは2年前。佑典が31歳で、莉乃は27歳のときだった。結婚のあいさつに来た時から孫のことをせっつかれていたので、知美としては2年も待たされたから余計にかわいく思えるのだろう。いとおしそうに宏太を抱き上げ、佑典たちを中に案内する。広々とした三和土(たたき)には数多くの靴が並べられている。
義実家は片田舎にあり、地元では有名な名士で親戚もかなり多い。その面々が今日のために勢ぞろいしていると聞いていた。知美は宏太を連れて客間に入っていく。すると客間から沸くようなな反応が聞こえてきた。莉乃もうれしそうに客間に入り、佑典はその一歩後ろから続いた。
「おお、莉乃。長旅お疲れさん」
もうすでに出来上がっているのか、義父の文夫が赤い顔で出迎える。他にも結婚式の時に会った顔がいくつもあった。佑典はできる限り愛想よく、あいさつをして回った。
「莉乃ちゃん、ようやく子供生めたな。30になる前で本当に良かった」
真一が大きな声で莉乃に声をかけた。真一は義父の妹の夫で、かっぷくがかなり良い。そして、かなりぶしつけな物言いをする人物だ。しかし莉乃は真一の言動を気にする様子もなく返事をしている。この中でその発言に違和感や不快感を抱いているのは佑典だけのようだ。その場にいる女性たちですら、何も聞こえてないかのように流している。
結婚式のときにもここにいる面々と一通り会話をしたことがあったが、どうにも合わないと感じていた。この一族とは価値観が大きく乖離(かいり)しているのだ。
佑典は息苦しさを感じながら、宴会に参加していた。