義家族への拒否反応
宴会中、息子の宏太は義母・知美の腕の中ですやすやと寝ている。その寝顔を見て、知美はご満悦の表情だ。
「ねえ、この子、とっても美形よね? 目鼻立ちもしっかりしているし。将来は俳優とかいいんじゃない?」
それに対して真一がご機嫌に義父・文夫に声をかける。
「お義兄さん、芸能事務所にコネなんてありませんでしたか? ああいうところはコネがないと入れないらしいですから」
「いやいや、さすがに俺でもそんなコネないよ。佑典くんは東京の会社で働いているんだろ? どうだ? コネないのか?」
文夫に問われ、佑典は必死で否定する。
「いえいえ、そんなものはないですよ……」
「そうか。それじゃ、康作のところの会社に入れようか。あそこなら、働かなくても毎月50万は給料をくれるぞ」
文夫の言葉に真一はガハハと笑う。
「またですか。あいつの会社、お義父(とう)さんの知り合いばかりになってしまいますよ」
「私があいつの会社にいくら融資したと思ってる。向こうには嫌がる権利すらないよ。……そうだ、佑典くん、仕事に困ったら、いつでも言いなさい。私が良い条件の会社を紹介してあげるからね」
「あ、は、はい…」
絶対に関わりたくないと心で念じながら佑典は返事をした。
文夫たちは典型的な田舎育ちの井の中の蛙(かわず)だ。しかしその井戸の中では確実につわものであった。そしてつわものとしての振る舞いを惜しげもなく見せつけ、周りを萎縮させる。そうやってのし上がってきたのだろうが、そのやり方、言動、全てに佑典は拒否反応を示していた。この先もずっとこの一族との付き合いをしなければならないと思うと、気が重くなった。