夫の決意
それからも優太は睡眠時間を削り、オリンピックの閉幕まで日本代表を応援し続けた。8月も半ばを過ぎて、これでようやく落ち着いた日々が戻って来るのかと思っていたが、オリンピックは優太にとある影響を与えていた。
「俺さ、運動をしようと思うんだよ」
オリンピックが終わった翌日の夕食時、真面目な表情で優太は言い出した。
「運動? 珍しいわね」
「ああ。やっぱり日本代表の選手たちってスゴい体をしてるんだよね。今回のオリンピックにさ、俺と同世代の代表の人もいて、メチャクチャ体も仕上がってるし、頑張っていたんだ」
水咲は自ら作ったハンバーグの味を確かめながら、相づちを打つ。
「へえ。そうなんだ」
「それに比べてさ、俺の体見てくれよ。明らかに太っただろ?」
水咲は優太の体つきを見る。確かに太っている。そのことに水咲は3年前から気付いていた。昔はもっとすらっとしていたし、頰もシャープだった。
「このままじゃ良くないと思うんだよね。俺、運動して痩せようと思う」
「良いんじゃない。でも、何やるの?」
「まあ、ランニングじゃないかな。一番手っ取り早くできるし。球技とかさ、人が集まらないといけないし、グラウンドとかでしないといけないから大変じゃん」
優太の説明に水咲もうなずく。
「うん、良い考えだと思う。じゃあさ、私も一緒にやるわ」
「水咲は、全然太ってねーじゃん」
シンプルな褒め言葉に水咲は軽く吹き出す。
「まあ、痩せる目的ってのがないわけじゃないよ。でも、ほら、私、高校までバスケやってたって言ってたじゃん」
「ああ、何か強い高校だったんだろ?」
「そうそう。もうバスケはやってないけど、体を動かすこと自体は好きだからさ、私も一緒にやりたいのよ」
水咲がそういうと、優太はうれしそうに顔のパーツを中心に寄せて笑った。