繰り上がったのは基礎年金のみ

そういった中で、緑さんは65歳前で年金が受け取れる友人がうらやましいからと、61歳で繰上げを選択したわけですが、この場合に繰上げとなるのは老齢基礎年金のみで、老齢厚生年金は同時には繰上げにならず、65歳からの支給となります。

そして、65歳になった際に、老齢厚生年金を請求していれば、65歳からその受給が始まりますが、緑さんは忙しさもあって、全く気が付かず、請求していませんでした。そのため、68歳でたまたま職員から未請求の年金があると言われたことになります。緑さんの5カ月分の老齢厚生年金は年間6000円と計算されました。

よく老齢厚生年金の繰上げをする場合は老齢基礎年金の繰上げも同時であると言われますが、今回の緑さんのケースではこれは当てはまらないことになります。

65歳にさかのぼるか、繰り下げるか

「けど、私はもう68歳。今からその老齢厚生年金の手続きは間に合うのですか?」と職員に言います。

緑さんの疑問に対して職員は、この65歳からの老齢厚生年金について、「今から請求しても全額受け取ることができます。65歳開始として過去3年分(6000円×3年)受給し、今後も65歳開始の年金(年間6000円)を受け取ることができます」と回答しました。また、「この老齢厚生年金については、65歳開始ではなく、今あるいは将来繰下げ受給するか選ぶこともできます」との案内でした。

実は、この場合の未請求だった老齢厚生年金については繰上げとは逆に、受給の開始を遅らせる代わりに増額させる繰下げ受給(1カ月繰下げにつき0.7%増額)もできることになっています。現在の68歳から繰下げ受給を開始することも、引き続き繰下げ待機(受給を保留)したままで将来になってから繰下げ受給を開始することもできます(最大75歳まで繰下げ可能)。

緑さんは「へぇ~そんな複雑な制度なのね~」と少々難しく感じましたが、おおむね内容を理解しました。緑さんの考えとしては老齢基礎年金を繰上げするほどでしたので、老齢厚生年金は65歳開始でさかのぼって受給することになりました。「少ないけど老齢厚生年金が3年分さかのぼって、今後も年6000円の老齢厚生年金が老齢基礎年金に上乗せされるのね」と納得しました。

このように68歳の時に、請求していなかった年金に知ることができ、下手をすれば受け取り損ねたかもしれない年金を受け取れることになりました。緑さんと異なり、この老齢厚生年金を未請求のまま亡くなってしまうケースも実はあります。自分が受け取れる年金は何か、受け取れる年金の請求漏れはないか確認しておくことが大切でしょう。

※プライバシー保護のため、内容を一部脚色しています。