相続にあたって配偶者が断然有利だと言われるのは、「配偶者の税額の軽減」という特例があって、1億6000万円までは非課税で相続できるからです。だからといって安易にこの特例を使うと、その配偶者が亡くなった時、子供たちの相続税負担が膨らんでしまう危険性もあります。その罠にはまったのが、佐藤巧さんと弟の亮さん(ともに仮名)です。
佐藤さんきょうだいも、配偶者の税額の軽減を利用することで二次相続が大変になるとは認識していたそうです。とはいえ、実家の評価額が思いのほか高くて相続税を現金で納付するのが難しかったのに加え、残された母親は専業主婦で母親名義の財産はほとんどなく、さらに、母親が実家に1人で住み続けることに難色を示したため「いずれ手放すのであれば当面、実家の不動産が母親名義でも問題ないだろう」と考えたとのことでした。
母親が亡くなったのはそれから約8年たった昨年秋。その間、佐藤さんきょうだいにとっては想定外となる出来事が2つ発生し、今、2人はそれぞれ500万円以上の相続税を納付する必要に迫られています。詳しい経緯を兄の巧さんに聞きました。
〈佐藤巧さんプロフィール〉
東京都在住
55歳
男性
会社員
会社員の妻、大学生の長女と3人暮らし
金融資産1300万円(世帯)
9000万円の遺産と“苦肉の選択”
8年前に父が病死した際、残された遺産の相続税評価額は実家も含めると9000万円近くに上りました。相続人は母と私、弟ですから、相続税の基礎控除(4800万円)を超えた4200万円に相続税が課税されることになります。
とはいえ、やたらと高い実家の評価額に対して金融資産はそれほどなかったので、いわゆる「配偶者の税額の軽減」の制度を使って母が全財産を相続することで相続税の負担を免れる選択をしました。配偶者の税額の軽減とは、故人の配偶者が相続した遺産が1億6000万円、もしくは法定相続分(我が家の場合は2分の1)のいずれか多い方の金額までは、相続税がかからないというものです。
この制度は、夫婦のどちらか一方が先に亡くなった一次相続の時はいいけれど、残された方が亡くなった二次相続での相続税負担が大きくなりがちなことから、悪手だと言われます。しかし、当時はデフレで地価もそれほど上がっていませんでしたし、母は専業主婦で資産もほとんど持っていなかったため、二次相続も何とかなると楽観的に考えていたのです。