止まらなくなる賭け
そうして「遊び」は、ゆっくりと習慣になっていった。
だが、当たりが続いたのはほんの最初だけだった。勝つたびに掛け金を少しずつ増やすようになり、5000円が1万円、5万円へと膨らむ。外れるたび、「今度こそ」と思い、金額を戻せなくなった。
「あ、当たった当たった」
一度だけ、1万円が4万円になったことがあった。そのときの興奮は、秀美にとって確かな高揚だった。
だが、すぐにその4万円は消えた。次の週、外れ、さらに次の週も外れた。なのに、「取り返せる」と思ってしまう。自分はそこまで運が悪くないはずだ、これだけ外れたのだからそろそろ当たるはずだと。
負けが重なるたびに、少しずつ、心のどこかがざわついていく。ただの「遊び」だったはずのものが、いつしか「勝たなければならないもの」に変わっていた。
拓哉はときどき秀美がため息をついても、「ほどほどにしろよ」と肩をすくめて笑うだけだった。その反応にすがるように、秀美は次の週も、また馬券を買った。
「あと少し勝てば、戻せる」
「元に戻せば、なかったことにできる」
そんな理屈を並べて、自分を誤魔化していたが、これはもう「趣味」ではない。
秀美は、うっすらと気づき始めていた。しかし、やめるきっかけも、言い出すタイミングも見つけられなかった。心に渦巻く焦りを、誰にも見せることなく、また日曜がやって来た。
●空虚な日々を埋めるため競馬を始めた秀美は、最初の的中で夫・拓哉に褒められた喜びが忘れられず、「遊び」は依存へと変わり、やめられなくなっていた…… 後編【「離婚」を覚悟した妻…貯金200万円を競馬で溶かした事実に30年冷え切った関係だった夫が見せた意外な反応】にて、詳細をお伝えします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
