27万円の的中で得た承認

翌週、試しにスマホで5000円分の馬券を買ってみた。

どうせ当たらないだろうと思っていた。しかし結果は、的中だった。

当たった瞬間、驚きで笑ってしまった。こんなに簡単にお金が増えるなんて、と浮かれたわけではない。ただ、自分の選んだ馬がゴールを駆け抜けるのを見て、「やった」と自然に声が出た。

「あのね、私……今日競馬をしてみたの」

夕食の席で報告すると、拓哉がちらりと顔を向けた。

「……へぇ、当たったのか?」

「うん。5000円が、27万円になった」

思わず笑って言うと、拓哉もほんのわずか、口の端を緩めた。

「すごいじゃないか」

たったそれだけの一言が、なぜかとても嬉しかった。

何かを褒められたのは、どれくらいぶりだったろう。誰かに自分を肯定してもらえることが、こんなにも胸に響くなんて。

「ビギナーズラックってやつだよ」

そう返しながらも、秀美は自然と微笑んでいた。

   ◇

5000円が、27万円になった――その日から、秀美の週末は少しだけ色を持つようになった。

金額の問題ではなかった。自分で選んだものが当たる、その小さな達成感。そして、初めて当たったときのあのひとこと。

「すごいじゃないか」

拓哉の顔が思い浮かぶ。その笑みはほんのわずかだったが、秀美の心には長く残った。

次の週末も、テレビで競馬中継を観た。最初はルールも仕組みもよく分からなかったが、調べていくうちに「枠連」だの「単勝」だの、聞き慣れなかった言葉が、少しずつ意味を持ち始める。

そしてまた、5000円分だけ、馬券を買ってみた。

今度は外れた。だが不思議と悔しさはなく、「なるほど、そう来たか」と、まるで謎解きをするような気持ちだった。パズルのように予想を組み立て、結果と照らし合わせる時間が、ぽっかり空いていた日常の穴を埋めていく。

「これ、見る?」

気づけば、週末に拓哉と並んでレースを見るようにもなっていた。といっても拓哉が積極的に参加しているわけではない。ただ黙って隣に座り、たまにうなずくだけ。でもその時間が、秀美には心地よかった。

「この馬、名前がかわいいでしょ。『モモノハナ』って。応援したくなるじゃない」

そう話しかけると、拓哉は小さく笑った。

「そんな理由で決めて当たるのか?」

「案外、当たったりするのよ」

ふたりのあいだに生まれた、ささやかなやりとり。それは十年ぶりくらいの夫婦らしい会話だったかもしれない。