買い物や掃除をかって出る寿美

寿美はその後、近所のスーパーで買い込んだ食料品を半ば無理やり冷蔵庫に詰め込んだ。そして、冷蔵庫に余ってた食料を消費する形で、簡単に昼食を済ませた。聞けばスーパーの惣菜は、なんとえっちゃんが差し入れてくれたものらしい。

「えっちゃん、こういうの前にも持ってきてくれて……でも、いつも受け取るだけで、申し訳なくてねえ」

母がぽつりとつぶやく。

寿美は一瞬手を止めて頷くと、また黙々と箸を動かし始めた。

「ごちそうさま。この辺、ちょっと片付けていい?」

「いいわよ、そんなことしなくても……」

「いや、私が気になるから」

食事を終えると、寿美は何となくテーブルの上を片付け始めた。新聞、電気とガスの明細書、保険の通知、医療費の領収書。散らばっていた紙を、寿美はひとつずつ手に取りながら、分類していく。

その中にATMの引き出し明細があった。残高を見て思わず手が止まる。取引後残高がわずか数千円しかない。利用日は、先月の日付だ。

「お母さん……」

息のような呼びかけは台所の母には届かず、湿っぽい空気が漂う居間に落ちた。開けっ放しの窓から、いつの間にか夜の気配が差し込んでいた。

●久々に母の家に様子を見にいった寿美は、母の口座の残高がわずかであることを知る。困窮した生活ぶりの背景に一体何があるのか…… 後編【「解約してなかったのかしら」母の生活を追い詰めたものに仰天…50代主婦が直面した老後破産の落とし穴】にて、詳細をお伝えします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。