<前編のあらすじ>

51歳の満子は派遣社員である。配偶者はいないが、気ままな一人暮らしを楽しんでもいた。そんな満子の父が亡くなる。

すでに母は他界しており、実家はもぬけの殻に。実家を管理する気はさらさらなかった満子は父の臨終を機に実家を整理し、土地ごと売却してしまおうと考えていた。

満子は業者の手も借りながら遺品整理を進めていった。すると満子は、蔵の中で、ひときわ重たい中身のわからぬ木箱を見つける。

開けてみると、そこには800万円分の金の延べ棒が納められていた。

両親からの思わぬ贈り物と思い、金の延べ棒を売却して得たお金を使う満子だが、大事なことを忘れていた。税務の手続きである。

前編:「お父さん、お母さん、ありがとう」父の亡き後、アラフィフ独身女性が実家の蔵で見つけた「贈り物」

税務署から通知が

穏やかな午後だった。カフェインを控えようと最近になってコーヒーの代わりに飲み始めたハーブティーを片手に、満子は郵便物をチェックしていた。すると広告や請求書に混じって、1通の茶封筒が目に留まった。差出人は、最寄りの税務署になっている。

「……え?」

税務署からの通知なんて、これまで受け取ったことがない。何かの間違いだろうかと思いながら封を開けると、「確定申告のお願い」と大きく書かれた紙が出てきた。その下には、こう続いていた。

『昨年度、申告されていない所得がある可能性があります。お心当たりのある方は、早めに申告をお願いいたします』

未申告の可能性がある所得として記されていたのは800万円。心当たりはひとつしかなかった。

書類を持つ満子の手は、じっとりと汗ばんでいった。

「そんなの、聞いてない……!」

1年前、父の蔵で見つけた金塊を換金し、手にした800万円。満子はそれを「もともとなかったお金だ」と割り切って、これまで経験したことのない贅沢をくり返した。高級レストランで食事をし、ブランドバッグを買い、きらびやかなジュエリーを身につけた。

お金をほとんど使い切った今、夢は醒めるものだからと満子はいつもの質素な生活に戻っていた。とはいえ、派遣から正社員になったことで毎月の給料も上がっていたし、普通に暮らす分には全く不自由はない。贅沢をしていた日々は楽しかったが、限りあるお金で慎ましく暮らすのも、それはそれで魅力や楽しさがある。
そう思っていた。

「……どうしよう」

満子は通知書を手に、呆然としていた。

この800万円は、そもそも「相続」になるのか、それとも「所得」として扱われるのか?

もし税金を払わなければいけないとしたら、どれくらいかかるのか?

使ってしまったお金を、今さらどうやって用意すればいいのか?

贅沢は人の心を豊かにする。たしかにそうだった。だが、迂闊だった。

満子は深いため息をついた。スマホを手に取り、税金に詳しい同僚の顔を思い浮かべながら、連絡先を探し始めた。