結構ヤバいかもね

「金塊を換金して800万円か……それ、確定申告してないなら結構ヤバいかもね」
職場の給湯室で、満子は税金に詳しい同僚・佐藤さんに事情を話していた。

佐藤さんは、普段は穏やかで冗談好きな人だが、このときばかりは表情が引き締まっていた。

「えっ、そうなの? でも、基礎控除があるから3000万円以下は税金かからないんじゃないの……? そのくらいは私も知ってるよ」

満子がネットで調べてきた付け焼刃の知識に、佐藤さんは軽くため息をついた。

「それは亡くなった後3か月以内に相続財産として申告してればの話。満子さんの場合、相続税の申告期限を過ぎてるから、相続財産の未申告とみなされる可能性が高いね」

相続財産の未申告――。その言葉が、ずしりと重くのしかかる。

「未申告の場合は、どうなるの?」

満子が恐る恐る尋ねると、佐藤さんは説明を続けてくれた。

「税務署が動いたってことは、遅かれ早かれ税金を払わなきゃいけないね。で、今回の場合だと、延滞税っていうのが発生するケースだと思うよ」

「延滞税……?」

言葉が頭の中でぐるぐると回る。まるで呪文のように思えたが、要するに満子は使い切った800万円に対して、今から払っていなかった分の税金と遅れた分の税金を払わなければならないということだ。

「……どうして、もっと早く調べなかったんだろう」

その日、帰宅した満子は、部屋のソファに深く沈み込みながら、自分を責めた。
銀行口座の残高を確認すると、そこには、老後のために少しずつ貯めていた貯金しか残っていなかった。

満子は何も考えずに、あの800万円を使い切ってしまった。あのときは、「もともとなかったお金」と軽く考えていた。しかし、今目の前にあるのは、税務署からの通知。もちろん「払えません」なんて、通用しない。

満子は深く息をついたあと、次の行動を決めた。

ここまで来たら、うだうだ言い訳しても意味がない。

まずは、正直に税務署に相談しよう、と。