結局無駄にお金がかかり……
満子は銀行の窓口で、静かに通帳を差し出した。
「税金の支払いですね。こちらの金額でよろしいでしょうか?」
係員が提示した数字を見て、満子は小さくうなずいた。老後の貯金を切り崩して支払うことになるとは、800万円を手にしたあの日には思いもしなかった。
税務署に相談し、確定申告を済ませると、追徴課税と延滞税を含めた支払い金額が決まった。幸い、分割払いの相談にも応じてもらえたが、結局、手元に残っていた
貯金の金額からすれば手痛い出費だった。
家に帰ってソファに座り天井を見上げると、800万円を手にしてからの1年間の記憶が、次々と浮かんでは消えていった。
高級レストランでの食事、憧れのブランドバッグに、ジュエリー。得たものは、たしかにある。ただし、贅沢を心から楽しむということは、最低限のお金の知識があってこそだと、満子は身をもって学んだ。
「結局、こうやって地道に努力するのが私には合ってるのよね」
これからもしばらく人生は続いていく。
電車の窓の向こうに広がる朝の街並みを見つめながら、満子は小さく息を吐いた。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。