兄激怒「楽して生きていこうとしてんじゃねぇよ」

この方法であれば賢吾さんの生活費は何とかなりそうだ。

筆者がそう思った時、黙って話を聞いていた兄が口を開きました。

「せっかくのご提案なのですが……私は反対です」

そして兄は賢吾さんの方にゆっくりと顔を向けました。

「今まで黙ってお前の話を聞いてきたけど、もういい加減にしろ! いつまでも親に甘えてんじゃない! まずは働けるようになるのが先だろ? 楽して生きていこうとしてんじゃねぇよ」

兄の厳しい言葉に、部屋の空気が一変。賢吾さんは表情を失ってしまいました。

ひょっとしたら、賢吾さんだけ優遇されているのが面白くないのかもしれない。

そう感じた筆者は次のような提案をしました。

「この際、お兄様にも家賃収入が入るように、ご両親がさらにリースバック物件を購入してみるのはいかがでしょうか。もちろん、賢吾さんと同じ金額にするのは難しいでしょうが、それでも月10万円くらいなら可能だと思われます」

この提案にも兄は拒否を示しました。

「お気持ちは大変うれしいのですが、私は兄弟間の不平等に不満を持っているわけではありません。こいつがいい歳して親に甘えている態度が許せないのです。大変申し訳ありませんが、リースバック物件の話は当面見送らせてください。今回の面談を通して感じたのですが、やはり賢吾が働けるようになることが先だと思うからです。その点についてこれから家族でじっくりと話し合ってみます」

兄の言葉を賢吾さんは黙って聞いていましたが、明らかに不満の表情を浮かべています。 

両親も何も言えずに口を閉ざしてしまいました。 

結局、何も決まらないまま面談は終了となりました。

半年後も状況変わらず…続く両親の不安

家族面談から半年が過ぎた頃。母親から連絡がありました。

「結局、長男の強い反対でリースバック物件の購入はしないことになりました。申し訳ございません。といっても賢吾は今も働くことはせず、病院の受診もしていませんが……」

「それは心配ですね。賢吾さんの生活費は今どうしているのですか?」

「仕方ないので月23万円の援助は続けています。長男からは『もうあいつにお金を渡す必要はない!』と怒られていますが、さすがにお金を渡さないわけにもいきませんでしょう? いつまでこんなことが続くのか。不安で仕方がありません」

兄の理解が得られれば、賢吾さんの一生涯の生活費をまかなえたかもしれないのに。そう思うと、筆者は何ともやりきれない気持ちになりました。

※プライバシー保護のため、事例内容に一部変更を加えています。