父親との激しい対立で別居を決断

働きもせずに家にいる賢吾さんに腹を立てた父親は「いつまでフラフラしているんだ。いい加減にしろ。学校に行かないのなら働け!」と怒鳴り散らすこともあったそうです。

すると賢吾さんはこれに反発。父親と大声で言い争いを繰り返していました。時には取っ組み合いの喧嘩もあったそうです。

「このまま同居を続けていては、いつか大きな傷害事件に発展してしまう」

そう思った母親は、賢吾さんと父親を説得。父親が実家近くのマンションを借り、そこに賢吾さんを住まわせることにしました。

別居後、母親は月に1~2回様子を見に行きました。賢吾さんは洗濯や掃除がまったくできなかったので、仕方なく母親がやっていたそうです。食事は、賢吾さんがコンビニやスーパーで弁当などを買い、済ませていました。

賢吾さんは働いていないので、生活費と家賃は父親が負担しています。父親も賢吾さんを家から追い出した負い目があるのか、しぶしぶ援助を続けてきたそうです。

筆者がその金額を尋ねると、思いもよらない答えが返ってきました。

生活費が15万円、家賃が8万円、合計23万円とのこと。

「月23万円! 今までよく援助を続けてこられましたね」

「はい。主人は会社役員で収入がそれなりにありましたので。でも主人は現在74歳。75歳で役員を退任するので、収入は年金だけになってしまいます。私たち親にも生活がありますから、月23万円のお金を援助し続けることは難しいと考えています」

「賢吾さんは、お父様が75歳で役員を退任されることは知っているのですか?」

「はい。知っています。だからでしょうか、『これから俺の生活はどうなるんだ?』と私にしつこく聞いてくるのです。私たちとしては、これを機に次男が社会復帰してくれるのを願っているのですが……」

「そうなると、賢吾さんご本人としっかり話し合いをしなければなりませんよね」

「そうなのです。ですが、私たち親がいくら言っても賢吾は聞く耳を持たないと思います。そこで先生(筆者)にも家族面談に同席してほしいのです。それは可能でしょうか?」

「家族面談に同席するのは構いません。とはいえ、賢吾さんが私の話を聞き入れてくれるかどうかは分かりません。それでもよろしいでしょうか?」

「はい、構いません。お手数をおかけしてしまいますが、どうぞよろしくお願いいたします」

このような経緯もあり、筆者は後日、賢吾さん家族と面談をすることになりました。