<前編のあらすじ>
就職活動に苦戦する息子・翔太を、厳格な夫・宏が厳しく問い詰める食卓。
追い詰められた息子を見て心を痛める母・灯里は、ある朝、偶然見つけた通帳から100万円近くの貯金が消えている事実に驚愕する。
今まで真面目だった息子の異変に恐怖を感じた灯里は、夫に話す前に直接、本人に問い質すことを決意する。
●【前編】「いったい何に使ったの?」夫が正論が息子を追い詰めた夜、母が見つけた「100万円」の謎
息子が衝撃の真相を告白
夜の帳がゆっくりと降りるにつれて、家の中は静まり返っていった。灯里は廊下の突き当たりにある翔太の部屋の前で立ち止まった。
「翔太、少し話せる?」
間がややあって「うん」と返事があった。重たげな声だったが、灯里は意を決してドアを開けた。
「翔太、今日机の引き出しでね……通帳を見つけたの」
そう切り出すと、翔太の肩がびくりと揺れた。顔を上げないまま、唇だけがわずかに動いた。
「……勝手に入るなよ」
「ごめんね。でも気になってしまって」
灯里が言葉を継ぐと、沈黙が部屋を満たした。翔太は拳をぎゅっと握り、やがて小さな声でつぶやいた。
「就活の……セミナーに行ったんだ」
灯里は思わず身を乗り出した。
「セミナー?」
「ネットで見つけて……就職に有利になるって書いてあって。講師がすごく親身で、ここに入れば内定が取れるって口コミもあったし」
そこで言葉が途切れた。視線は床に落ち、肩は小刻みに震えていた。
「まさか、あのお金は……」
「うん……入会金。100万円って言われて……本当は払えない額だったけど、これで変われるならって思って……じいちゃんたちからのお祝いとか、ずっと貯めてきたお年玉も……全部」
震える声が次第に涙に濡れていく。灯里は胸が締めつけられるようだった。
「正直、怪しいかもって思った。それにセミナー通ったからって受かるもんでもないよなって。でも、どうしても結果が欲しかったんだ。父さんの期待に応えたくて……」
翔太は唇をかみしめ、目元をぬぐった。