自分を責めないで

母親として、できることはないかと思った灯里は消費者センターに連絡したり、自分なりに調べた結果、まだ解約できるかもしれないという結論にたどり着いた。全額とはいかないかもしれないが、お金が一部でも返ってくれば翔太の罪悪感も和らぐかもしれないと思った。

その日も面接を終えて家に帰ってきた翔太にそのことを伝えたのは夕食の後だった。

彼はまだスーツ姿のままソファの端に座り、灯里の言葉を聞くなり、顔を伏せて小さな声で「ごめん」とつぶやいた。

「ごめん、本当にごめんなさい……」

同じ言葉を繰り返しながら、深々と頭を下げる息子の姿に、胸が締めつけられた。

「翔太、もう謝らなくていいのよ」

灯里はそっと肩に手を置き、彼の目を見つめた。

「私もね、間違っていたんだと思う。お父さんの意見に従うことが正しいって思ってきた。でも、それだけじゃだめだった。あなたの気持ちを聞こうとしなかった。母親として、あなたを守れてなかった」

自分の声が震えているのがわかった。

翔太はしばらく黙っていたが、やがて目を潤ませて顔を上げた。

「母さん……」

「だから、もう自分を責めないで。これからは、自分の意思を大事にして。失敗したって、遠回りしたっていい。私たち親子なんだから、何度でもやり直せばいいのよ」

翔太の瞳に、かすかな光が戻るのを見た気がした。彼はうなずき、そして再び小さな声で「ありがとう」と言った。その瞬間、心の中に静かな温もりが広がった。

厳格な夫のそばで影のように従ってきた灯里にも、母としての役割が確かにあるのだと。

その夜の灯里は、心地よい眠りにつくことができた。