憔悴する翔太に寄り添う母の決意
子どものころから不器用なりに頑張ってきた姿を思い出し、灯里は涙がこみ上げるのを堪えた。
「翔太……」
声をかけると、彼は弱々しく首を振った。
「お願いだから、父さんには言わないで。絶対に怒鳴られる。もう家にも居場所がなくなる」
その懇願の表情を見た瞬間、灯里は答えを決めていた。
「わかったわ。お父さんには今は黙っておく。でも、その代わり……私には全部話して。何を考えて、どうしたいのかを」
翔太は涙を浮かべながら、ようやくこちらを見た。
その瞳には、親に助けを求める幼さと、大人になろうとする苦しみが同居していた。
灯里はそっと隣に座り、肩に手を置いた。温もりが伝わると、翔太の呼吸が少しだけ落ち着いていくのを感じた。
親子として、今、向き合う時なのだ。夫の意見を重んじてきた灯里でも、この瞬間だけは母としての直感に従うしかない。
静かな部屋の中で、灯里たちの影が寄り添っていた。
――その夜、寝室の灯りを消しても、心は落ち着かなかった。隣で眠る宏の寝息が規則正しく響く中、灯里は目を閉じても眠れず、ただ天井の模様を追い続けていた。
私たち夫婦の「期待」が、翔太を縛りつけてきたのではないか。
胸の奥に澱のように残っていた疑問が、今夜ははっきりと形を取って迫ってくる。
翔太を追い詰めたのは、何も宏の厳しい言葉だけでない。灯里自身も「応援している」という名目で、結局は何もできていなかったのではないか。
ベッドの中で身じろぎし、ふと宏の横顔を眺めた。
厳格で誠実な夫。
その信念に灯里は長年寄り添ってきたし、尊敬もしている。しかし、それが翔太には重荷だったのかもしれない。
唇を噛みしめると、胸が痛んだ。