母が雨の日に寝込む理由

「亡くなった……?」

「台風で増水した川に飲み込まれちゃったのよ」

加奈子の説明を聞き、百合子はなぜ君枝がいつも雨の強い日や嵐の日に寝込むのかの理由を理解した。夫を亡くした日のことを思い出してしまうからだったのだ。

「事故だったんですね……」

「……それがね、そうも言えないの」

「え?」

「達郎さん、友達に騙されたりして大きな借金を背負っちゃっててね。色々と大変だったのよ。そんなときに亡くなったからさ」
そこで加奈子は言葉を濁したが、百合子には何を言おうとしているかは分かった。

「自殺の可能性があるんですね……」

「もちろん姉さんはそんな風には思ってないわ。でも結果、達郎さんが亡くなって借金に関しては相続放棄という形でなくなったからさ。それが狙いだったのかもってね……」
もちろんどんな言葉も推測の域を出なかった。

お礼を伝えて電話を切った百合子は夫に今晩は実家に泊まることを伝えた。
夜になると台風は収まり、外は静かになった。百合子は君枝の様子を見に寝室に静かに入った。

「……百合子」

呼びかけられて百合子は電気を点ける。君枝はゆっくりと体を起こす。
「ごめんなさい。迷惑をかけてしまって」

「ううん、全然気にしないで。お父さんのこと今でも忘れられないのね」

交番でのことが記憶にあるのだろう。君枝は観念したかのように頷いた。

「黙っててごめんなさい」

「怒ってないよ。お父さんのこと、忘れないとやっていけなかったんでしょ?」
百合子の指摘に君枝は口を震わせた。

「な、なんで、なんで私たちを残して……」

百合子はそっと君枝を抱き寄せる。君枝はずっと気丈に振る舞っていたのだ。本当は辛くて悲しくてたまらないのに、百合子のために無理やり笑ってくれていたのだ。

「……ありがとう。お母さんのおかげで私は幸せな毎日を過ごせたよ」

そう言うと君枝は布団に顔を押しつけて泣き出した。

「3人で、3人でいられたら貧しくても何でも良かったのに……!」
むせび泣く君枝の背中を百合子は擦り続けた。

「今までずっと寂しい思いをさせてごめん。気付いてあげられなくてごめんね」

謝る百合子に君枝は泣きながら顔を横に振り、強い力で手を握ってきた。百合子もその手を強く握り返した。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。