明らかになった「真実」

君枝を家に連れ帰った百合子は、母が無事だったことに胸をなでおろしたが、「達郎」という人物が引っ掛かっていた。そこで百合子は数年ぶりに叔母の加奈子に連絡してみることにした。

加奈子は君枝の妹だ。他県に住んでいて滅多に会うこともないし連絡も取り合うこともなかった。それでも加奈子なら何かを知ってるのではないかと思ったのだ。
突然の電話に驚きながらも、対応してくれる。

「珍しいこともあるのね……! もしかしてお姉ちゃんに何かあったの……⁉」

「いえ、ちょっと気になることがあって電話をさせてもらったんです。すいません、突然」

「あ、そうなの。良かった。何かあったのかと思ってドキドキしちゃったわ」

電話越しに安堵する声が聞こえてくる。警察に保護されたので「何もなかった」わけではないけれど―遠方に住む叔母をあまり心配させたくはない。さっそく本題に入ろう。

「今日ですね、母がいきなり達郎さんって言って泣き出してしまったんです。達郎さんを助けないとって。叔母さんはこの達郎さんのこと何か知りませんか?」

百合子は加奈子に問いかけてみた。しかし返事が返ってこない。電波が悪いのかと思っていると小さく息を吐く音が聞こえた。

「……そんなこと言ってたのね」
やはり加奈子は何かを知っているらしかった。

「叔母さん、達郎さんについて教えてもらってもいいですか?」

「……姉さんには口止めされてたんだけどね」

「きっと母に聞いても何も言ってくれないと思います。でも私はその達郎さんって人がどうしても気になるんです……!」

百合子はそう懇願すると、加奈子は応じてくれた。

「姉さんには怒られちゃうかもしれないわね」

「大丈夫です。私が説明しますから」

「……達郎さんはね、あなたのお父さんよ」
加奈子に言われて百合子は唇を固く結んだ。今日は虫の知らせがよく働く。どこかでそんな気がしていたからこそ、引っ掛かったのかもしれない。

「……そうですか。でも私はてっきり母は父のことを恨んでると思ってました。何も私には話してくれなかったですから。でも今日の感じを見るとそういうことでもないようですね……」

「……そうね。きっと恨んでなんかはないでしょう。むしろ心から大切に想っていたんだわ」

「あの、そんなに大切な人とどうして別れたりしたんですか?」
百合子の質問に加奈子は一呼吸おいて答えた。

「達郎さんはね、亡くなったのよ。まだ百合子ちゃんが赤ちゃんだった頃にね」