「だまされていても構わない」父が明かした衝撃の本音
長野さんははやる気持ちを抑え、宗司さんとの会話の中で、先日見た若者向け起業資料のことを話題に出した。予想通り宗司さんは食いつき、長野さんは宗司さんが出資していた男性と直接会う機会を得た。
男性は名前を吉田(仮名)といった。年のころはおそらく20代中盤から後半。爽やかな外見に快活で、礼儀正しい身の振る舞いにどこか親しみを感じてしまう。だが、注意深く話を聞くとその話の内容はどこか要領を得ない。
夢について聞いてみれば「地元の活性化のためのアプリ開発を進めている」「今は資金集めの時期」など、起業家によくある言葉を並べるが、具体的な実績も活動もなかった。
長野さんはその日、不信感や怒りを押し殺して和やかに振る舞うことに努め、なんとか会合を終えた。帰宅後、彼が宗司さんにどういうことか問いただすと、予想もしない返答が返ってきた。
「彼は立派な若者だよ。今は結果が出ていないだけで、夢を持って頑張っている。応援してあげたいじゃないか」
ムッとした様子で反論してくる宗司さんを見て、長野さんは「完全にだまされている……」と一瞬言葉を詰まらせた。
なんとか「でも、500万円だよ? 詐欺かもしれないんだよ?」と絞り出す。
だが、宗司さんはすぐに反論する。
「仮にそうだとしても、それはそれで俺の責任だ。俺は誰かの夢を信じたいだけなんだ」
長野さんは絶句した。なぜなら宗司さんはだまされている可能性を理解していないのではなく、“理解した上で”なお応援を続けていたからだ。
●果たして長野さんは父親を止めることができるのか。次に取った行動と10年後の現実を、後編【「俺の人生なんだから、俺が決める」若者への送金で老後資金を減らす父、絶望に襲われた40代息子の決断は…】で詳説します。
※プライバシー保護のため、事例内容に一部変更を加えています。