外出先で起きた通行人とのトラブル

家にいても苛立つだけだと思って外に出てみたが、どこに行って良いのかも将範には分からない。これでは徘徊老人と同じだと、さらに苛立ちを募らせながら歩いていると、脇道から犬を連れた若い男がやってきて、将範に近づいてくる。

犬の小刻みな荒い吐息も、男が吹いている奇妙な旋律も、鬱陶しかったが、将範は意識から締め出してすれ違う。しかし数歩進んだところに落ちていた糞が、将範の苛立ちを爆発させた。

「おい!」

思わず声を出していた。飼い主の男は振り返り、眉間に皺を寄せてこちらを見てくる。

「……は?」

声を出してしまった以上、引っ込みが付かなくなり将範は地面に放置された糞を指さす。

「なにをしている? 飼い主ならちゃんと処理をしないとダメだろ?」

犬がした糞は飼い主が処理をするのがマナーだ。それなのにこの男はそれを無視して立ち去ろうとしている。

「は? うちじゃないっすよ。通る前から落ちてましたから」

「そんなわけないだろう。飼い主としてきちんと責任を取りなさい」

男は舌打ちをし、将範を無視して歩き去ろうとする。無視をされたことに余計に腹が立ち、将範は早足で男の前に回り込んだ。

「掃除をするか持って帰るかどちらかしろ。何もしないなんて許さんぞ……!」

すると逆上した男が将範に掴みかかってくる。

「なんなんだよ、あんた。俺じゃねえって言ってんだろ。クソが」

「お前がクソだろうが! 年長者に向かってその口の利き方はなんだ!」

将範も男の胸座をつかんだ。そして、吠える犬に負けないくらいの大声で、男のことを罵った。

●2人の口論の結末は? そして将範が妻に打ち明けた悩みとは? 後編【「俺は人生を間違えてしまった」定年退職後の虚無感に悩み暴走する夫を救った、妻の“愛ある提案”】にて詳細をお届けする。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。