親亡き後はどうなる? 判明した2240万円の重み

母親によると、哲夫さんは親亡き後に備え、障害基礎年金はできるだけ使わずに貯蓄をしてきたそうです。

もしこのまま哲夫さんの障害基礎年金が停止し続けたら、将来の貯蓄にどのくらいの影響が出てしまうのか?

母親はそのような不安を口にしたので、筆者は概算してみることにしました。

哲夫さんは障害基礎年金の2級を受けていたので、その金額は次の通りです。

障害基礎年金 2級は年額83万1700円
障害年金生活者支援給付金は年額換算で6万5400円
合計 89万7100円
※いずれも2025年度の金額

哲夫さんは母親が亡くなるまでの間、貯蓄を続けるものとします。仮に母親が亡くなるのが女性の平均寿命である87歳だとすると、今から25年後です。

すると89万7100円×25年=約2240万円。今後、哲夫さんが障害基礎年金を受けられなくなったとすると、25年間で約2240万円の差が出てしまうことになりそうです。

「2000万円以上……。そんな大金、長男のために私たち両親が残してあげることはできません。受給再開の手立ては何かありませんか?」

主治医交代の落とし穴

そもそも哲夫さんは今まで障害基礎年金の更新をすることができていました。それが今回に限っては更新が認められなかった。つまり、今回の障害状態確認届の記載内容では哲夫さんのうつ病は「軽快した」と判断されたからにほかなりません。

そのことを伝えると、母親は首を左右に振りました。

「更新時期当時も長男のうつ病は以前と変わらず重いままでした。一体、何が起こったのか? 何がいけなかったのか? よく分かりません」

「なるほど。ご長男はうつ病が軽快していたわけではない。それでも今回の障害状態確認届は軽めに記載されていたということですね。ひょっとして今回の障害状態確認届を書いた医師は、今までとは別の医師ですか?」

「はい、そうです。今までのお医者さんとは別の方です。それが何か問題でも?」

「なるほど。どうやら原因が分かってきたかもしれません」

筆者はさらに母親から聞き取りをしてみました。すると次のようなことが分かりました。

哲夫さんが今まで通っていた病院の医師が高齢となり、転院を余儀なくされたそうです。転院先の病院に移ってからは日が浅く、今回の障害状態確認届はその病院で書いてもらうことになりました。

このことから、転院先の新しい主治医には哲夫さんの状況がうまく伝わっておらず、今回の障害状態確認届の記載内容が軽めになってしまった可能性が考えられました。

「もしそうなら、何とかなるかもしれない」

筆者はそのように思いました。

●新しい主治医との信頼関係構築の行方は? そして家族の切実な願いは実現するのか――後編【働けない息子の収入が途絶える緊急事態…障害基礎年金支給停止からの再開は可能? 母と専門家がたどり着いた予想外の結末】で詳説します。

※プライバシー保護のため、事例内容に一部変更を加えています。