ゴミ拾いを続けていると……
春とはいえ、まだ少し肌寒い湘南の海岸で、明日香は美理と一緒にゴミ拾いを続けていた。波打ち際に近づくと、砂に半分埋もれたビニール袋や、空き缶がいくつも転がっているのが見えた。拾っても拾っても、海岸にはまだまだゴミが残っている。終わりの見えない作業に、だんだんと気が遠くなってくる。
「ママ、こっちにもあったよ!」
疲労感を覚え始めている明日香とは対照的に、美理はまだ元気いっぱいだ。彼女はすっかり慣れた手つきで砂まみれのペットボトルを拾い、袋に入れた。
「いいね、美理。上手に拾えたね」
明日香は軽く自分の腰を叩きながら、美理に笑いかけた。
「ようし、ママも頑張るぞ」
砂に足を取られながら駆け出し、美理のそばにしゃがんで波打ち際で揺れていた細い紐のようなものを拾い上げる。
「痛っ……!」
手のひらに鋭い痛みが走った。顔をしかめながら軍手を外して見てみると、皮膚が
赤く腫れ、細かい発疹が浮かび上がっていた。
「ママ? 大丈夫? どうしたの?」
美理がのぞきこむように明日香のことを見上げる。明日香は慌てて笑顔を作った。
「大丈夫。ちょっと、チクッとしただけよ」
美理を不安にさせたくなくて、努めて平静を装った。しかし、痛みは次第に強くなり、ズキズキと脈打つような感覚が広がっていく。
「ママ、赤くなってるよ……痛くない?」
「ちょっとヒリヒリするけど、大丈夫よ。ほら、ゴミ拾い頑張ろう」
気丈に振舞ってみせたが、痛みはすでに我慢しがたいほどにまで強くなっている。額にはじっとりとしたいやな汗が浮かび、明日香はめまいがしてその場に座り込んでしまった。
●突然の痛みの原因はクラゲだった。春先になぜ? そんな疑問を抱く明日香にボランティアスタッフが語ったのは温暖化によって起こっている問題だった。後編【真っ赤に腫れた手のひらの痛みが想起させる、地球温暖化の影…海洋清掃のボランティア活動中に母娘が遭遇したアクシデント】にて詳細をお届けする。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。