今度一緒にホストクラブに行こう
実際、達之が憎いのはそうなのだが、何か具体的な行動を起こそうとは露ほども考えていなかった。きっと25年以上我慢して暮らしてきてしまうと、憎しみにも慣れてしまうのだろう。あるいは、今更どうでもいいという諦念にも近い感情が、アグレッシブな行動力を奪ってしまうのだろう。
「かすみってあんまり趣味らしい趣味もないでしょ? なんか息抜きとか、楽しみとか見つけたほうがいいわよ。どうせ時間もできるんだし」
「息抜きかぁ……」
「そうだ、今度、私と一緒にホスト行きましょうよ。こんなおばさんでも女として扱ってくれるし、楽しいわよぉ~」
「ホストなんて通ってるの⁉」
「少し前からね。くたびれた旦那を眺めてる毎日じゃ面白くないんだもの。推し活よ、推し活」
かすみは目を丸くしつつ、この母にしてあの娘があるのだなと妙な納得を覚えた。
「ちなみにお金のことは気にしなくて大丈夫。節度を持って遊べば、そんな何十万もかかったりしないから。私もついてるし」
「仕方ない。そんなに言うなら1回だけ付き合ってあげるよ」
かすみはやれやれと肩をすくめてみせたものの、未知の世界に足を踏み入れることに、ほんの少しだけ胸が高鳴っているような気がした。
●結局、友人に言われるがまま、ホストクラブへ足を踏み入れたかすみ。偽りではあるが、今まで満たされなかった思いを叶えてくれる存在と出会い、かすみは次第にホストクラブの沼にはまり込んでいってしまう。後編:【12万のシャンパンタワーを入れ…夜の街にハマった50代主婦に、不貞夫が突きつけた言葉と彼女の選んだ道】にて詳細をお届けする。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。