<前編のあらすじ>

40代の理香子には悩みの種があった、関西から移動してきた、課長の北である。セクハラ、パワハラのオンパレード。清水という東大大学院出の若手社員に目を付け徹底的にいびる姿にも、理香子は心を悩ませていた。

そんなある日、北の思い付きで「花見」が開かれることになる。開催場所の近場にある美術館に行こうと一足早くやってきた理香子だが、そこにはすでに清水がいた。聞けば北に、買い出しと場所取りをなかば強要されたのだと言う。

可愛そうに思った、理香子は清水と共に、花見が開かれるまで時間を潰すことに。そして北がやって来た。

北以外はだれも楽しんでいない、独り善がりな花見が始まるのだが……。

前編:「使えないんだから場所取りくらいやっとけって」独り善がりな“ハラスメント上司”が開催した地獄の花見

課長のセクハラがはじまり……

花見の席は騒がしさを増していった。桜の花びらが舞い落ちるなか、アルコールの匂いが漂い、笑い声はどんどん大きくなっていく。

理香子は自分の缶チューハイを手に持ったまま、遠巻きにその光景を眺めている。もちろん北課長はすっかり出来上がり、酔った勢いで好き放題に振る舞っている。 

「里菜ちゃんは、彼氏とかおるん?」

課長が隣に座る若い女性社員に絡んでいた。彼女は戸惑いながらも曖昧に笑い、適当に受け流そうとしていたが、その程度の空気を課長が察してくれるはずもない。

「なんやねん、冷たい顔すな。俺もこう見えて、昔はえらいモテたんやで?」

そんな話、誰も聞きたくないのに、課長はつばを飛ばしながら自分語りを止めない。周囲の社員たちは苦笑いを浮かべるだけだった。

「なあ、とろ水、お前はどうなんや? って、こんなやつがモテるわけないか」

「え、いや、あの……」

「ほら、なんか言わんかい! お前、ほんまにコミュ障やなあ!」

肩をガシッと掴まれ、清水の体が左右に大きく揺さぶられる。清水の持っていた缶の飲み口からチューハイがこぼれ、清水のはいていたジーンズに滴った。

課長だけが楽しそうだった。

「いやぁ、お前みたいなポンコツ、久しぶりに見るで! 大学院卒? だからなんだよ、もっと男らしくせなあかん! 最近の若いのはおとなしすぎておもろない」

「……すみません」

清水は小さくそう呟いた。

「それやで、それ。すぐしょぼくれた顔するからあかんのや。アホか!」

清水は今にも泣きそうな顔になっていた。さすがにやりすぎたと思ったのか、あるいは凍りついている場の空気を察したのか、周りの社員たちに「なあ、今のハラスメントか?」と冗談交じりに聞いている。

もちろんハラスメント以外の何ものでもないのだが、そうですとは言えず、みんな愛想笑いで濁している。

「おい、小林。お前はどうなんや」