課長に下された鉄槌
花見での一件は社内のコンプライアンス室でも問題化され、日常的に行われていたハラスメントが次から次へと明るみになった。
課長は再三、コンプライアンス室長に呼び出され、自宅謹慎を言い渡された挙句、一般社員への降格と地方支社への異動が決まった。
課長が異動してから1週間、朝のオフィスには穏やかな空気が流れている。
無駄に大きな声が響くこともなければ、誰かが理不尽に叱責されることもない。
「小林さん、おはようございます」
かけられた声の方を見ると、清水がこちらを向いていた。彼の表情は、以前よりずっと明るいように見える。
「おはよう、清水くん」
そう返しながら、理香子は彼の変化を密かに喜んでいた。
彼はまだ不器用なところはあるが、仕事への姿勢が変わったのがわかる。会話の声も少しずつはっきりとしてきたし、最近は他の同僚と冗談を交わす姿も見かけるようになった。
きっと、彼はずっと窮屈だったのだ。課長のいじりにも、周囲の無関心にも、ただ耐えるしかなかった日々がなくなったことで、ようやく本来の自分を取り戻し始めたのかもしれない。
「今日もよろしくね」
もうすっかり暖かくなった春の風が、開いた窓からオフィスのなかへと流れ込んだ。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。