<前編のあらすじ>
シングルマザーである雅子の娘・真央は大学卒業を控えていた。食品メーカーへの就職も決まっている。
娘が巣立つまで何とか一人で育て上げることができた。雅子は万感胸にせまる思いだった。
だがしかし、雅子と真央、親子二人を絶望の淵に追いやるような出来事が起こる。
とある振袖レンタル業者が倒産、夜逃げし多数の予約者に被害が出ているとの報道を二人は目にし愕然とする。二人もまた、このレンタル業者の被害者だったのだ。真央は卒業式に着るはずの振袖を、この会社でレンタルしようとしていた。
電話をかけても、業者は出るはずがない。他の業者からレンタルしようにも、もう期限は過ぎてしまっていた。真央は「卒業式はあきらめた」とばかりにふさぎ込んでしまう。もう、なすすべはないのか……。途方に暮れる二人の元に、「おばあちゃん」がやってきた。
前編:「家で二人で過ごすのもあと少し…」一人娘の大学卒業が決まり、家で感傷に浸るシングルマザーを絶望させた出来事とは
母と疎遠だったワケ
母と最後に会ったのは、もう10年ほど前のことになる。
疎遠になったきっかけは、父が病気になり、治療方針で対立したこと。雅子はできる限りの延命治療を望んだが、母は頑として首を横に振ったのだ。
「本人が望まないなら、無理に引き止めるものじゃない。このまま逝かせてあげよう」
担当医の説明を聞いた母は、いとも簡単に結論を下した。
昔から飄々としていて、娘の雅子から見てもどこか捉えどころのない母。
一方で父は、いつもにこにこと笑顔を絶やさず、雅子にも愛情深く接してくれた。まさに晴れの日のような人。そんな父の命を諦める選択など、雅子には到底考えられなかった。
たとえどんな形でも生きていてほしい。1秒でも長く一緒にいたい。そう思って雅子は母に必死で訴えた。
「でも、お父さんはまだ生きてるんだよ……⁉ 少しでも可能性があるなら、私は諦めたくない……!」
「これ以上はお互い苦しいだけだよ、雅子。この人の寿命はここまでだったんだ」
冷たい、と思った。
だが、結果として母の意見が通り、父は静かに旅立っていった。
雅子は納得がいかなかったが、直接母を責めることはなかった。きっと心のどこかで、母が正しいことを分かっていたからだろう。大量のチューブに繋がれて、ただ生かされ続けることが父の望んだ幸せなわけがない。どんな姿でも生きていてほしいというのは、完全に雅子のエゴだった。
しかし、そう分かっていても母が父の命をあっさり手放す選択をしたことが許せなくて、悲しくて、寂しくて仕方がなかった。