おばあちゃんがやってきた理由
「ちょっと待って、どうして急に……?」
「真央ちゃん、大学卒業だろう? 成長した孫の顔を見にくるのに理由なんていらないでしょう」
母は荷物を抱えて上がり込んでくる。雅子の視線を無視するように「ああ寒い寒い」と呟いてリビングに向かう。
「あれ、真央ちゃんは? お出かけかい?」
「お母さん、せっかく来てもらって悪いけど、今はそれどころじゃないの……」
遠まわしに帰ってくれと言った雅子の言葉は母にも伝わっているはずだが、彼女は特に気分を害した様子もなく、ロングコートを脱いでいる。
「そんなことは分かってるよ」
母は足元に置いた大きな荷物を引き寄せてファスナーを開ける。その音がやけに大きく、刀を振るったような鋭さで響く。
「あれだけテレビで騒いでたからね。ひょっとすると、あんたたちも困ってるんじゃないかと思ってさ……」
母はそう呟きながら、丁寧に畳まれた包みを取り出した。風呂敷をほどくと、そこには見覚えのある柄の振袖と袴があった。
雅子は息を呑んだ。
濃い紫に梅の花が散りばめられた振袖。光の加減で艶やかに輝くその生地に、思わず指が伸びた。袴は深いえんじ色で、裾に繊細な刺繍が施されていた。