ステレオタイプで人を見すぎ
「ねぇ、どうしてこんなことになったんだと思う?」
半ば強引に、仕事終わりの岡村をバーに誘った。春輝との一部始終の愚痴を吐いた瑠美に対し、岡村が言いにくそうに、それでも端的に答えた。
「デートっていうか、面接みたいって思ったんじゃない?」
言葉を失う瑠美に、岡村が続ける。
「瑠美はさ、男とか女とかのステレオタイプで人を見すぎなんだよ。男が奢るべきっていうのも、媚びているようで実は下に見てるわけで」
岡村の言葉は的確だった。けれども瑠美を傷つけようとする意図は、岡村からは感じられなかった。だからこそ、岡村の言葉が瑠美の心に刺さり、塩を塗り込まれたかのように染みる。
「だから、男はこうあるべき、私は女なんだからこう、みたいなやりとりがめんどくさかったんじゃないかな」
無意識にささくれを剥いたせいで、指先に血がにじんでいた。
もう二度と、春輝のような人には出会えないだろう。それだけは確実だった。瑠美は自分が抱いていた思い上がりに気づき、深く後悔したのだった。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。