金目当ての女たち
落ち着いた雰囲気のイタリアンレストラン。
柔らかい照明に照らされたテーブルに座る女性は、思っていたよりも美しかった。早速利用したマッチングアプリで知り合った彼女は、プロフィル写真の印象そのままの、清楚(せいそ)で華やかな雰囲気をまとっていたのだ。
「このお店、すてきですね。予約してくれてありがとうございます。こういうお店はよく来るんですか?」
都内の企業で受付嬢として働いているという10歳年下の彼女はほほ笑みながら、グラスに口をつける。
正志は、内心ホッとした。この店は、彼女のリクエストとネットの口コミを頼りに探した場所だ。
「んー、たまにですかね。一緒に来る相手もいないですし」
「さすが牧田さん、やっぱり余裕のある人って違いますよね」
彼女は笑顔を崩さずに言ったが、その言葉にはどこか引っかかりを感じた。
会話の流れを誘導されているような気がしてならない。
しかも、正志の望まない方へ向かって。
「いや、そんなことないよ。僕なんて普通だから」
「えー? 普通の人が、こんな高いレストランをさらっと予約したり、高級車に乗ったりしないと思いますけど」
彼女は笑いながらそう言うと、正志の手元の腕時計に視線を落とした。
「その時計、すごくいいものですよね? ブランド名はわからないけど、高そう……」
女性に褒められること自体は悪い気分ではない。しかし、会話が続くにつれて、どこか重たいものが胸にのしかかってくるのを感じた。
決定的だったのは、彼女の趣味の話になったときだった。彼女は旅行好きらしく、最近訪れた観光地の写真をスマホで見せてくれた。
「旅行行き過ぎて、私、全然貯金とかできないんですよ。だからやっぱり、もし結婚するなら牧田さんみたいにバリバリお仕事頑張ってる人がいいなあって思うんですよね。外資系なんですよね? 年収もすごいんじゃないんですか?」
「まあ、それなりにね」
控えめに答えつつ、正志は内心ため息をついていた。
確かに外資系企業に勤める正志は、同年代と比べて高い年収を得ている。
だからこそ高級スーツや時計、車などを短期間でそろえることができたわけだが、女性たちからこうも露骨な反応を示されるとは思ってもみなかったのだ。
企業名を聞いて目の前で年収を検索し始めたアラフォーOL。
車種を知るためにドライブデートに誘ってきた30代の看護師。
ストレートに貯金額を聞いてきた女性もいた。
彼女たちを受け流しながら、正志は次第に疲弊していった。どの出会いも、どの会話も、自分という人間ではなく、身にまとったものや収入にしか興味を持たれていないと感じさせるものだったからだ。
「もう、限界かもしれないな……」
その夜、正志は自室のベッドに横たわりながらスマホを握りしめ、アプリをアンインストールした。これ以上、婚活を続ける気力が湧かなかったのだ。
●婚活に挫折してしまった正志に、思ってもみない出来事が訪れる――。後編【「似合わなすぎる」マッチングアプリ婚活に失敗したアラフォー男性を一蹴…バツイチ同級生の「核心を突いた言葉」】にて、詳細をお届けします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。