どんな高級品にも勝るもの
「ごめんね、嫌な思いをさせちゃってさ」
駐車場に戻り、車に乗った大樹は、助手席の望海に向かって頭を下げた。
「ううん、でも、これで良かったの?」
「まあ、最悪こうなるかもってのはちょっと思ってたし、言いたいことも言えてむしろ清々したよ。望海の切り返しも最高だったしね」
大樹はそう言って、うつむきながら思い出し笑いをした。
「確かに母さんは司法試験に合格したわけじゃないのに、弁護士以外は人間じゃないみたいな顔で偉そうに語ってたもんな~」
「いや、単純に不思議に思っただけで、別に揚げ足を取ろうとか思ってたわけじゃないんだけど……」
望海が弁明すると、大樹は声を出して笑った。
「いいんだよ、勘違いしてる人には厳しく言ってあげないとな」
「……まあでも、何だか大樹がダメ人間みたいな言われ方してて、それが悔しかったってのもあるかな」
望海が本音を吐露すると、大樹は目尻を落として見つめてきた。
「ありがとう。望海が俺の味方でいてくれたから、今までの思いを吐き出せたんだと思う」
「それなら良かった」
大樹が車のエンジンをかける。シートベルトを締めながら、望海はふとした思いつきを口にする。
「そうだ。家に帰る前にスーパーに寄ろうよ。ワインに合うつまみを買って帰ろ」
「お、いいね。チーズ? 生ハム?」
「せっかくだから全部買おう。疲れちゃったし、今日くらいはぜいたくしよう」
「おっけー。こりゃ楽しみだ」
車はゆっくりと走りだす。
きっとスーパーで買えるようなチーズも生ハムも瑠璃子にとっては庶民くさい安物なんだろう。だけど大樹と囲むなら、それは望海にとってどんな高級品にも勝るぜいたくなんだと思った。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。