子のいない夫婦こそ遺言書を作るべき理由

私が子のいない夫婦こそ遺言書を作るべきだと考える理由にはいくつかのものがある。そのうちの1つが「家族以外が相続人になる可能性が高い」という部分だ。

通常、ある人が亡くなったとき、相続人となるのはその人の子と配偶者である。だが、西さん夫婦には子や孫がいない。この時、相続人となるのは配偶者と亡くなった本人の親や祖父母だ。そして父母に加えて祖父母もいなければ兄弟姉妹が相続人となる。

西さん夫婦の場合は子もいない上に夫の孝明さんには父母や祖父母もいない事例であった。そのため孝明さんが亡くなれば孝明さんの兄弟姉妹が妻の愛子さんとともに相続人となる。

亡くなった配偶者の家族は義家族といえどしょせんは他人。近年では配偶者の死後に義家族との縁を切るために死後離婚といわれる手続きを行う人も増えている。相続でもめ事が起こることは想像に難しくない。

実際に筆者の顧客でも類似の事例で遺言書を作らなかったがゆえに相続争いが起こったケースはいくつもある。

私は一通り遺言書を作るべき理由を説明したが西さん夫婦の意見は変わらず、その日は遺言書について不要という結論となり解散となった。

西さん夫婦の意見としては「自身の兄弟姉妹はみな定職についているし、みな配偶者や子がいる。わざわざ私たちの遺産を目当てになんかしないだろう」というものだった。

しかし、この考えは甘すぎる。相続において絶対はない。加えて「だろう」といった甘い考えは通用しない。

相続で親族が豹変することは珍しくない

西さん夫婦の相談からおよそ2年4カ月。夫である孝明さんが亡くなった。孝明さんには兄と妹がいる。その兄と妹が、妻の愛子さんに自分たちにも遺産を分けるよう要求してきたのだ。

遺産は完全に自分のものだと思い込んでいた愛子さんにとっては寝耳に水。当面の生活費に加えて老後の生活費も遺産をアテにしていたことから彼女にとっては人生を左右する大問題となった。

●愛子さんは対抗手段を探して知恵を絞りますが……。気になる相続争いの結末は、後編【「自分たちには権利がある」裕福な義家族からの遺産分割の要求に困惑、夫を亡くした女性の相続争いの行方は…】で詳説します。

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※人物名はすべて仮名です。