公正証書の魅力と言えば、強い証拠力にあると考える人も少なくない。だがしかし、使い方によってはまさかの方法で目的を果たせるものでもある。今回は一風変わった方法で公正証書を利用し、貸したお金の回収に成功した米原さんについて紹介しよう

困窮する友人を見捨てられなかった米原さん

「俺はもう事業を撤退する。けど、撤退するにも先立つものがなければどうにもならないんだ……」

雨の降る日の喫茶店で遠藤さん(40代・男性)はこう切り出した。それに対して米原さん(50代・女性)は「120万円までなら貸せるけど、それ以上は難しいよ」と答えた。

こうして米原さんは2022年6月、友人である遠藤さんに120万ものお金を貸した。

お金を貸すに至った原因は当時流行していた感染症だ。遠藤さんは飲食店を営んでいたのだが、世間の流れにあらがえず事業が不振になった。生活に困窮していたところ、古くからの友人である米原さんを頼るに至った。それに対し、「あなたの頼みなら」と米原さんがお金を貸したという具合だ。

その際、米原さんは1つの条件を出した。それは貸し借りの事実を公正証書で作成するということだ。米原さんは遠藤さんがお金をいつか返せなくなるのではないのかと万一の事態も想定していた。それに備えて公正証書を作成しようと考えていた。

「分かった、君がそれで安心できるのならそうしよう」。遠藤さんは公正証書を作成することでお金が借りられるのであればと快諾した。

ただ、米原さんが公正証書を作成したのにはちょっとした裏がある。