<前編のあらすじ>
都内アパートで一人暮らしをしていた88歳の母親を亡くした里見さん(50代、仮名)。母親は老衰による自然死で、発見も翌日と早く、部屋に損傷や異臭もなかった。しかし葬儀を終えて気持ちが落ち着いてきた頃、大家の住吉さん(仮名)から突然の連絡が入る。
「親御さんが部屋で亡くなったことで、うちの物件は事故物件になってしまった。損害賠償を求めます」。請求額は約100万円。「母はただ静かに亡くなっただけなのに、どうして事故物件扱いされるのか…納得できませんでした」と語る里見さんは、専門家に相談を求めることにした。
●前編:「母は静かに亡くなっただけなのに」事故物件扱いで大家から100万円の請求…高齢者の一人暮らしで起きた悲劇
自然死は原則、事故物件にはならない
ここで確認しておきたいのが、「事故物件」の定義だ。いわゆる事故物件は、宅地建物取引業法において明確に定義されているわけではない。判例やガイドライン、そして実務において形成されている概念になる。
そして、法的に事故物件だと判断されるケースとしては下記のようなものになる。
・殺人、自殺など事件性があるような場合
・火災などの事故死があった場合
・事故や事件性がなくとも、発見が遅れて遺体に損傷・異臭・害虫発生などがあった場合
したがって、老衰や病死などの自然死は原則、事故物件には該当しない。しかも、今回のように発見が早く部屋に損傷もなかった場合には、事故物件に該当するといえる材料、いわゆる心理的瑕疵(要は気持ち的に人が敬遠したくなるという欠陥)も成立しにくいと考えられる。